「学校の先生は学校のことしか知らない」
吉川さんが現在の暮らしを始めたのは昨年9月。きっかけは二つありました。
一つ目のきっかけは、昨年8月にイスラエルに2週間の旅に出た際、旅行期間中に家賃を支払うことに疑問を抱いたことです。「いまも頻繁に旅に出ますが、旅行するときにはそれまで泊まっていた宿をチェックアウトするだけでいいので、経済的に合理性があります」
二つ目のきっかけは、「学校の先生は学校のことしか知らない」と言われ、学校外の世界のことをもっと知りたいと思ったことでした。
日々届く郵便物や、勤務先への届け出など、日常生活に欠かせないもののように思いますが、吉川さんは「住民票は実家に置いてあります。ダイレクトメールは一切断っていますし、そもそも物を購入することがまれなので、宅配で困ったこともありません」とのこと。
勤務先の学校や、副業先の会社オフィスに荷物を届けてもらったことはあるそうです。
勤務先にも、もちろん現在の生活のことは話していますが、「通勤費用はもらっていないので特に支障があると感じたことはない」。
学校での授業の様子=吉川さん提供
あり得ない出会いの連続
金沢は観光地としても勢いがあり、国内外から多くの観光客が訪れます。そのため、吉川さんが滞在する先にも実に様々な人がいるといいます。
「衝撃的だったのは、『私、植物が恋愛対象なんです』と話す日本人です」。最初は戸惑ったという吉川さんですが、2日間かけて話を聞くうちに納得し、「人それぞれ価値観は違うし、その人の中で一貫しているものがあればいいんだ」と気づいたといいます。
「他にもたくさんの人に出会いました。僕と同じような生活をしている人も、土木関係の仕事で金沢に来ている人、世界を飛び回るお医者さんもいました」
そんな生活は「もともと頭が堅かった」と話す吉川さんを変えました。
「毎日こつこつ勉強して、少しでも偏差値の高い大学に進学し、有名な企業に就職することが正解だと思っていましたが、いまは様々な選択肢があるということがわかったんです」
英語の非常勤講師として勤めている県内の高校でも、生徒にそんな思いを話しているといいます。
「金沢特有なのかもしれませんが、地元の国立大学に進学し、公務員や地元の大手企業に就職することが唯一の成功例と捉えられがち。でもそんなことなくて、『興味や関心を持っていることをやればいいんだよ』と話すと、生徒たちも関心を示してくれていると感じます」
吉川さんが持ち歩いているバックパックの中身=本人提供
英語力がぐんぐん上がる
滞在先で出会った人たちのことや、学校以外の仕事の話……「子どもたちには積極的に学校の外の話をするようにしています」と吉川さん。
「高校生にとって、普段接する大人のほとんどは親か先生。様々な価値観に触れるべき年代に、限定的な人たちの話しか聞くことができないのはもったいない」
生徒たちからも、話を聞きたい業界のリクエストが来ることもあるといいます。
観光庁の調べによると、石川県内の外国人の延べ宿泊者数は年間97万3000人超(観光庁「宿泊旅行統計調査 (平成30年・年間値(確定値))」より)。お隣の富山県、福井県の倍以上です。吉川さんのアドレスホッパーとしての生活は英語力向上にもつながっているといいます。
「(アドレスホッパーを始める)1年前と比べて、格段に英語力が上がったように思います」
それまではネイティブスピーカーの6~7割ほどが聞き取れる程度だったといいますが、現在は9割以上理解でき、自分の思いを正確に伝えることができるようになったそうです。
ゲストハウスでの食事の様子=本人提供
唯一のデメリットは……
耳慣れない「アドレスホッパーの先生」という肩書に、周りが戸惑い、白い目で見られることもあるそうで、「同僚の先生から、『そんなことしていいの?』と心配されることもありましたし、見知らぬ人から『そんな生活をしている人に教育をしてほしくない』とメッセージが送られてきたり…」。
でも、吉川さんは、自分の話を関心を持って聞いてくれる生徒たちの姿から、周囲の言葉は気にならないといいます。
「先生たちは朝から晩まで学校にいます。部活動があれば、土日も。そんな先生たちこそ、アドレスホッパー的な生活をすれば、毎日必ず外との接点を持つことができる」
家の価値ってなんだろう
「雨風をしのぐだけでなく、様々な人との交流を楽しみたい。生活をするためだけの場所ではなくなってきていると思う」
筆者は、吉川さんの言葉を聞いて初めて一人暮らしをした大学時代を思い出しました。
4年間一人暮らしをしていましたが、どこにいても居心地の悪さを感じ続け、3回引っ越しました。家に帰っても眠るだけ。ほとんど帰っていない時期もありました。
家に何かを求めるという視点がなかった、あの頃の私に比べると、吉川さんは、住まいに求めているものが明確です。「家」というごくプライベートな空間においても、誰かと「出会いたい」と思っているのです。
「もちろん住まいに関しては、人それぞれの価値観によりますし、その人のライフステージによっても変わってきます」と前置きをした上で「私自身は現在独身で、比較的に自由ができる立場にいるので、『いまだからできること』と思って、しばらく続けていくつもりです」と吉川さん。
吉川さんの言葉からは、間取りや駅からの距離だけじゃない家の価値が見えてきます。
「賃貸」「持ち家」にとどまらない、その人の今の環境に合わせた柔軟な考え方をしてみる。そんな発想をしてみるだけで、生き方の選択肢は広がるのかもしれません。
吉川佳佑(よしかわ・けいすけ)2015年から石川県内の私立高校勤務。現在は臨時講師として同校に勤務する傍ら、「こみんぐる」 宿泊事業部、「ガイアックス 」ソーシャルメディア事業部にも所属。9月には「高校教師、住まいを捨てる。」(河出書房新社)を出版。
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