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300万円あれば家で死ぬことができる 『おひとりさまの最期』 | J-CAST BOOKウォッチ - J-CASTニュース

 いまから12年前、『おひとりさまの老後』(法研、2007年)という本を出し、「おひとりさま」という言葉を世に定着させた社会学者の上野千鶴子さん。その後、『男おひとりさま道』(同、2009年)を出し、同世代の訃報を耳にする年齢になり、書いたのが本書『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版)である。単行本は2015年に刊行され、このたび加筆・修正され文庫化された。

在宅で死ぬには

 「おひとりさま」として、「在宅ひとり死」を望む上野さんが、医療関係者や施設関係者や「在宅ひとり死」の現場を取材して書いたので、圧倒的に説得力がある。

 日本人の死に場所の現状を紹介している。病院が約80%、在宅が13%、施設が5%(2010年)で、施設での看取りが徐々に増えているという。

 政府は医療改革を進め、在宅看取りの受け皿を増やそうとしている。しかし、それは「家に家族が同居していること」が前提になっている。「おひとりさま」はどうしたらいいのか?

 上野さんが在宅医療を実践している専門職の取材を通してわかった、在宅看取りの条件は以下の4つ。

 1 本人の強い意思  2 介護力のある同居家族の存在  3 利用可能な地域医療・看護・介護資源  4 あとちょっとのおカネ

 これらをすべて満たすのは相当ハードルが高い。さらに「在宅ひとり死」となると条件は厳しくなる。それは以下の3点セットだ。

 1 24時間対応の巡回訪問介護  2 24時間対応の訪問看護  3 24時間対応の訪問医療の多職種連携
 

 これらのサービスに応じてくれる事業者は多くはないという。

死ぬための費用

 上野さんは「在宅ひとり死」の抵抗勢力として、家族、医療専門職、ケアマネージャーを挙げる。特に身近にいる家族よりも、遠くに離れている親族が騒ぐことが多いそうだ。高齢者のゆっくり死に、医療的介入は必要ない場合も多いので、家族の役割はただ見守るだけ。医師に来てもらうのは亡くなってから、死亡確認をして死亡診断書を書いてもらうだけだ。以前から医師が関わっていれば、立ち会いがなくても死亡診断書を書いてもらえるそうだ。「変死」扱いになる心配はない。

 ところで、「あとちょっとのおカネ」とはいくらくらいなのか? 上野さんは専門家の声を総合し、月額50万×半年間計300万円が在宅で「死ぬための費用」だと弾き出した。「あといくらかの自己負担があれば、終末期を在宅で迎えることができる」と書いている。

 さまざまな看取りの現場を上野さんは訪ねている。ホスピスはよく聞くが、「ホームホスピス」とは何か。直訳すれば「在宅ホスピス」だが、実態は高齢者のグループリビングに看取りが伴った事業だ。月額約15万円。医療が必要になれば、医療保険の自己負担分が加わる。宮崎市の施設の例を紹介している。

 グループホームでも、小規模多機能ホームでも、有料老人ホームでも、サービス付き高齢者住宅でもなく、業態は部屋貸し業だ。あえて介護保険の制度の枠に入らず運営している。

 このほか、家族に寄り添い、安らかな看取りへと導く「看取り士」養成講座やケアの最後の「秘境」といわれる認知症高齢者の終末期ケアの現場も報告している。

パートタイム家族のすすめ

 「親が倒れたので、引き取って同居しようと思う」とか「家に帰って親の介護をしなければならないだろうか」という相談のたびに、上野さんは「やめておきなさい」とアドバイスしている。家に要介護の年寄りがいると家は24時間365日勤務の介護職場になるという。だから別居をすすめている。ましてや介護のための離職はしないように、と戒めている。「たとえ親は喜んでくれても、親を見送ったあとのあなた自身の老後には、誰も責任をとってくれません」。

 「在宅ひとり死」に関心がなくても、年老いた親の行く末をどうしようかと考えている多くの人に参考になるだろう。

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November 27, 2019 at 05:21AM
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