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『家にとどまって』 ~その家が安全ではなかったら?~ - NHK NEWS WEB

『家にとどまって』 ~その家が安全ではなかったら?~

新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各国で自宅待機が呼びかけられている。家の中は、感染を防ぐことができる「安全な場所」とされるからだ。しかし、その家が、安全ではない人たちもいる。懸念されているのが、家に閉じこもることで増加する、家庭内の暴力だ。弱い立場にある女性や子どもが被害に遭うケースが相次いでいる。(ウィーン支局・ヨーロッパ総局・国際部取材班)

増えるDVへの懸念:オーストリアで起きた事件

3月下旬、オーストリアのウィーン郊外で、妻を凶器で殴り殺そうとした男が逮捕された。男は在宅勤務中で、ストレスから犯行に走ったとみられている。

ウィーンの女性の支援団体を取材すると、外出制限のもとで起きているDV被害の実態が垣間見えた。

外出制限が始まって2週間たった頃、ある女性から寄せられた相談。以前から暴言を放つ傾向があったという夫がずっと家にいるようになりDVがエスカレートしているという。

「料理がへただ」、「ゴミを早く捨てろ」、「本当にだめな母親だ」
絶え間なく暴言を浴びせられる日々。

女性が訴える言葉だ。
「突然、どなられる。とても怖い。隔離生活で、DVがいっそう深刻になっている。どうしたらいいか、もうわからない」

逃げ場を失った女性は追い詰められ、身体に不調が出ているという。

支援団体の代表は、「相談するすべのない女性たちが心配だ。被害女性の安全確保が大きな課題だ」と述べて、寄せられる相談は氷山の一角だと懸念を示した。

こうした中、オーストリア政府は早い段階から外出制限によるDVの増加を警戒し、対策に向けた予算の増額を打ち出している。

児童虐待も増加:フランスでは6歳男児が死亡

配偶者やパートナー間のDVと同じく、懸念されているのが、子どもへの虐待だ。

フランスでは最近、ある政府広告がテレビで繰り返し流れるようになった。家の中から泣き叫ぶ子どもの声。それを怒鳴りつける母親の大声が聞こえるシーン。そのあとに「虐待の疑いに気づいたら通報を」という呼びかけが現れる。

3月下旬には、いたたまれない事件が起きた。外出制限が始まって1週間あまり、パリ近郊で6歳の男の子が、父親に殴られたはずみで頭をテーブルにぶつけて死亡。

父親は、「学校にプリントを忘れたから殴った」と話し、現地メディアは、「外出制限が引き金になったのではないか」と伝えた。

フランスでは、政府の児童虐待の相談・通報窓口の番号に寄せられる電話は増加し、警察が介入しなければならない事案が増えているという。

”陰の”パンデミック

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を「パンデミック」とするならば、その陰でじわじわと増えるDV被害は、「”陰”のパンデミック(ShadowPandemic)」と言うべきだ。そう警鐘を鳴らすのが国連だ。

女性や子どもに暴力の矛先が向けられるのは、感染に対する恐れや緊張、そして移動が制限されていることへのストレスによるものだけではない。経済の悪化が与える影響も極めて深刻だ。失業や、収入が減ることへの不安から、より弱い立場にある女性や子どもに対して暴力をふるうケースが増えるだろうと国連は警戒を促す。

また、国によっては被害者が避難するためのシェルターが、感染拡大を防ぐために受け入れを制限する場合もあり、被害にあっても逃げ込む場所が失われている。

国連は、特に子どもについて、「学校の休校は、児童虐待を”早期発見できるメカニズム”を失うことを意味する」として、長引く休校措置によって、家庭内で虐待があっても、それを覚知しにくくなる事態を強く憂慮している。

相談の“急増”と“減少”が起きている?

国連が4月にまとめた報告書は、各国で外出制限が始まってから家庭内での暴力が急増している実態を示した。

▽フランス:30%増、▽アルゼンチン:25%増、▽シンガポール:33%増。
このほか、アメリカ、カナダ、ドイツ、スペイン、イギリスなどでも被害の拡大が確認されている。

しかし気になるのは、逆に、相談件数が減少している地域もあることだ。例えば、イタリアでは、3月はじめの2週間で55%も減少。フランスも一部の地域で相談が減っているという。これは一体、どういうことなのか。

過去に自然災害などで職場や学校が閉鎖され、人の移動が減った際に同様の現象が起きたというアメリカで、DV被害者支援ホットラインを運営するNPOのケイティー・レイジョーンズCEOは、こう指摘する。

「表にでる相談件数は、DVの実態を完全に反映しているとは言いがたい。暴力をふるう相手が常に家にいて、被害者の一挙手一投足を監視している。被害者の多くは、外部に助けを求めること自体が難しくなっている。本当の被害者は、もっと多くいるはずだ」

外出制限によるストレスから、暴力が増えるだけでなく、加害者が常にそばにいるために被害者が相談窓口にアクセスすることもできないという、いわば“二重苦”の状態になっているというのだ。

”手のひらシグナル”相談しやすい工夫を

安全であるはずの家の中で命の危険にさらされている人たちが、どうすれば加害者に気づかれず、SOSを発することができるか?

各国では、電話だけでなく、チャットや携帯電話のメッセージから相談を受け付ける工夫が行われている。

フランスでは政府が、聴覚障害がある人が携帯電話のメッセージで通報できる番号を児童虐待やDVの被害者も使えるようにした。

さらに、限られた外出の機会を活用しようと、被害者が、薬局で合言葉、「マスク19」と言うだけで、店員が、理由を聞かずに通報を手伝うよう呼びかけているほか、全国のスーパーなどにNGOのブースが設けられた。

カナダの財団が考案したのは、「助けを求めるシグナル」だ。声を出す必要も、テキストを打ち込む必要もなく、使うのは自分の「手のひら」だけ。

家の外の友人など誰かとつながった状態のパソコンやスマートフォンのカメラに向けて、親指を曲げた状態で手のひらを見せ、そのあと握りこぶしをつくる。このシグナルを見せるだけで、助けを求めているということを伝えるのだという。

あなたも加害者になるかもしれない

ストレスの多い環境の中では、いつ自分が加害者になるかわからない。

オーストリアのDV加害者の更生支援団体はこうアドバイスする。

「まずは自分のストレスの把握。こぶしを握りしめる、胃が痛むなどの兆候があったら別の部屋に行って1人になり、気持ちをしずめる。近所の散歩でもいい。そして、パートナーとその日の予定についてできるだけ会話すること。先のことではなく、その日の予定だけでいい」

またフランスのNGOは、子どもとの接し方に行き詰まった時は、ためらわずに誰かに相談することが大切だと話す。

「24時間、家で家族全員で過ごすのは、大人だけでなく子どもにとっても辛い。子どもに手を上げてしまいそうになったら、とにかくその手で電話をつかんで、助けを求めてほしい」

日本でも

「緊急事態宣言」が全国に拡大され、外出自粛の呼びかけや臨時休校が続く日本でも、DVや児童虐待の増加は喫緊の課題だ。

内閣府は、自治体が行っているDV被害者の相談業務や一時保護を、民間の団体にも委託し、態勢を拡充することにしている。

また、厚生労働省は、虐待のおそれを把握するため、学校に対し、休校期間中に設けられた登校日に子どもから聞き取りを行ったり、子どもに配布したタブレット端末などを通じて状況を確認したりするよう求めている。

終息の兆しが見えない新型コロナウイルス。感染した患者やその家族だけでなく、家の中で声を上げられずに苦しむ女性や子どもたちにどう必要な支援を届けるか、国や自治体、そして社会全体で対応を急がなければならない。

ウィーン支局長
禰津博人

ヨーロッパ総局記者
古山彰子

国際部記者
佐藤真莉子

国際部記者
青木緑

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