自宅で過ごす時間と向き合った今だからこそ、暮らしや家のことを見直してみませんか? 前回、今回と2回にわたり、いつもと趣向を変えて、石井健さんにこれからの住まいについてお話を聞きました。1回目のテーマはワークスペース、2回目となる今回のテーマはお金についてです。
家づくりのお金を減らせる? リノベーション後の暮らしは?
新型コロナウイルスの影響で続いてきた緊急事態宣言が解除されたいまも、私たちの暮らしや働き方がどうなるのか、まだ不安なことが多いですよね。そんな中で「家にかけるお金はできるだけ少なくしたい」というのが皆さんの気持ちだと思います。
でも、落ち着いて考えてみると、家にかけるお金は、いつでもできるだけ少ない方がいい。今だから特別なわけではなく、それがスタンダードな考え方です。家を購入するときは常にリスクが伴いますし、大きな借金を背負うことになるので、誰でも「将来、住宅ローンが払えなくなったらどうしよう?」と不安に思うものです。
家づくりには、「もっと住みやすくてすてきな家にしたい!」と思う感情的な面と、お金やスケジュールなどの合理的な面があります。この二つの折り合いをどうつけていくのかを考えることになります。
そのために、「どんな家にしたいのか」というコンセプト作りがとても大切です。これは家づくりに限らず、仕事でも趣味でも、どんなことでも同じだと思います。最初から「こんな家にしたい」と決まっていなくても、「どんな暮らしをしたいのか?」「ゴールは何?」「優先順位は?」「予算は?」などを考え、少しずつ理想の家に近づいていけばいいと思います。
まずは、「優先順位」をつけて余計なお金はかけずに、満足感が高いリノベーションをした事例をご紹介します。
家でゆっくりくつろぎたいので、視線の「抜け感」と「広々とした空間」が欲しいと考えて郊外の物件を選んだ事例です。100平米を超える家を都心で見つけるのは難しいし金額も高くなりますが、郊外なら実現可能です。共働きのご夫婦ですが、家の居心地よくなったので、「週末は家で過ごすことが多くなった」「オンとオフがはっきりし、気分転換しやすくなった」と、満足されています。
次は、家全体ではなく、必要な部分だけに集中した事例です。
一戸建てを購入されたご夫婦は、最初は1階、2階ともに大きくリノベーションする予定でした。でも、暮らしの中心は1階だということで、1階のリノベーションにお金と時間を集約して、2階は必要最低限に。選択と集中で、やりたいことを予算内に行うことができました。
自分では、「どんな家にしたいのか」を整理するのが難しいなと思った人がいるかもしれません。そんな場合には、私たちのような家づくりのプロを頼ってほしい。一緒にコンセプトを整理し、客観的なアドバイスをくれるプロの力は、最大限活用したほうがいいと思います。
また、家づくりにかかるお金を減らすことも大切ですが、予定通りに住宅ローンを返していくためには、リノベーション後の暮らしにも注目です。
リノベーションをした方々に話を聞いてみると、「家の居心地が良くなって、休日に外出しなくなった」「理想通りの家になったので、家に合わないものを買わなくなった」など、余計な出費が減ったという話をよく聞きます。リノベーションをするときに、「どんな暮らしをしたいのか?」とじっくりと考えたので、自分たちにとっての要不要がハッキリした結果だと思います。
次に紹介する事例は、洋服のデザイナーとして働く奥様の仕事用アトリエを併設されたお宅です。
少し郊外の最寄り駅からバスで5分ほどの場所に、91平米の広さのある比較的リーズナブルなマンションを購入してリノベーション。外部にアトリエを借りる経費はかかりませんし、子育てと仕事を両立できる、自分らしい暮らし方だと満足されていました。
最後に、少し違う視点での考え方を紹介します。住み替えを視野に入れた、二つの事例です。
日本では買った家にずっと住み続ける人が多いですが、ひとり暮らしの方、子育て中のご家族などライフスタイルが変わる可能性がある場合は、住み替えを選択肢の一つにしてもいいと思います。
一つ目は、「子どもたちが成長したときに、住み替えをする可能性も残したい」という希望に合わせて、既存の間取りを大きく変えずに、リノベーションした事例です。個性的な部屋にしてしまうと、将来、賃貸や売却が難しいことがあります。
二つ目は、ひとり暮らしのため夢を見すぎず、現在も将来も考えて現実的な物件を選んだ事例です。立地のいい場所に42.75平米のコンパクトな家を購入してリノベーションしました。ひとりで住むのにはちょうどいい広さで、掃除もラク。立地のいい場所なら将来引っ越しをしたとしても、賃貸や売却がしやすいメリットがあります。
時間がある今だからこそ、家にかかるお金について、考えてみるのがいいですね。そのとき、リノベーション後の暮らしのことも一緒に考えると、楽しみが広がります。
(構成・文 大橋史子)
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